GENELEC 「8351B」の 試聴記

GENELEC Japanから「8351B」スタジオ・モニターの貸出しを受けて試聴するオフ会を開催した。

 昨今、スピーカーの音の良さをスコア化する音響計測手法として注目されているスピノラマで、世界の数多くあるスピーカーの中からGENELECのスタジオ・モニターが、世界最高の評価を受けたとのことから是非、拙宅のリスニング・ルームでその実力を評価してみたいとの思いから、GENELEC Japanに貸出しを打診した。

 貸出し希望者が多いとのことから、ほぼ2ヶ月程度待って、The Onesシリーズの「8351B」という中型3Wayの最新スタジオ・モニターを貸出してもらった。販売価格は、1台50万円前後のスタジオ・モニターである。

 このモデルは、写真のように丸味を帯びたアルミダイキャスト製のエンクロージャーにコアキシャル・ユニットを搭載し、ミッドレンジのエッジから段差のない一体化されたウェーブガイド形状のバッフルに楕円形のウーファーをバッフル板の後方上下に2機配置した完全な仮想同軸のスピーカーで、エンクロージャー内にDSP、デジチャン及び3チャンネルのデジタル・パワーアンプを内蔵した、いわゆるパワード・スピーカーで、入力信号さえあれば音出しが可能なので、今回はLUMINAES/EBUのデジタル出力を「8351B」へ直結して鳴らすことにした。

LUMINは高性能なデジタル・ボリュームを搭載しているので本機の試聴用機材としては最適なプレーヤーとなった。

GENELEC 8351B-1


 「8351B」には、モニター・スピーカーとして様々なレコーディング・スタジオのルーム環境でもフラットな特性に補正できる「GLM」というルーム・レスポンス補正機能もオプションとして提供されているので、その音響補正機能も評価したく、キャリブレーションに必要なマイクなどの機材も同時に貸出しをしていただいた。

 GLM-kit.jpg


 GENELECの小型のモニター・スピーカーは、レコーディング・スタジオのプロユースのみではなく、個人のホーム・オーディオのスピーカーとしても購入されている方も少なからずおられる様であるが、小生にはスピノラマで注目されるまで殆ど関心をもつスピーカーではなかった。

 今回の貸出しを受けて、一般的なオーディオ機器の様に発表会などで聴く機会のないプロユースのスタジオ用モニター・スピーカーなので、いつも交流のあるオーディオ・ファイルに試聴の希望を打診したところ、9名の方が試聴を希望され、小生も含めて10名でGENELEC 8351B」をハイエンド・スピーカーとして試聴することになった。
 ちょうどこの期間中には、ストーン・スピーカー「STS-Ultimate」のみの試聴希望者もあり、この2週間で13名もの来訪者となった。 

 貸出し期間中には、「自作スピーカーのマスターブック」のIridium17さんも来宅されて、実際に「8351B」をスピノラマによる計測手法で音響計測をされることになった。
 測定作業の当日、午前9時ごろには拙宅に来られ、早々にスピノラマの計測に必要な指向性のデータを測定すべく、「8351B」を縦置き・横置きともにスピーカーを0°~180°まで10°毎に回転させるための自作ターンテーブルも持ち込んでの計測作業となった。

GENELEC 8351B 計測1


GENELEC 8351B 計測2

 

計測後の分析作業は後日となったが、やはりウェーブガイドの効果もあって、素晴らしい指向特性を確認することができた。

GENELEC_8351B 計測結果2


GENELEC_8351B 計測結果3


GENELEC_8351B 計測結果1

 午前中に計測作業を終えて、午後からは東京のGENELEC Japanから町野氏と浅田氏の2名がわざわざ来訪されて、GENELECの事業内容や製品仕様などを、詳しく説明をしていただいた。

今回、試聴した「8351B」というモデルの詳細は、メーカーのサイト8351Bの詳細を参照願いたいが

https://www.genelec.jp/studio-monitors/sam-coaxial-studio-monitors/8351-sam-studio-monitor/


 丸味を帯びたサイズは、H 452 x W 287 x D 278 mmのアルミダイキャスト製のエンクロージャーに指向性に配慮したウェーブガイド形状のバッフル板に装着されたコアキシャル・ユニットにおけるミッドレンジのコーンは素材については公表されていないものの、ポリプロピレンと思われる内径9.5cm程で、段差のないバッフル板にエッジも一体化された形状になっている。ツィーターは2cmのアルミ振動板を搭載している。
 ウーファーは25cm×12cmの楕円径でバッフル板後方の上下に2機搭載され、バッフル板の上下スリットと後方のバスレフポートを搭載して低音再生の補強がされている。
GENELEC 8351B-2


GENELEC 8351B-3

GENELEC 8351B-4


 今回の試聴に際しては、様々に設置場所を変えて試聴を始めたが、このモデルはリスナーから1m3mの範囲が推奨の設置範囲としていることもあり、1.5mから3mの範囲で設置場所を変えながら「GLM」という特性補正のキャリブレーションもしながら、様々なジャンルの音源で試聴をしてもらった。
 結果、オフ会の参加者における評価は、スタジオ・モニターだけあって、様々なジャンルの音源もサイズを超えて重低音までしっかりと再生するとの共通した評価であった。

このサイズにもかかわらず、サブウーファーによるブーストアップされた違和感をあまり感じさせない重低音である。

高音についても、アルミの振動板で、これほどアルミの固有音を感じさせない高音は聴いたことはないものであった。

 今回の試聴会における参加者は、ほとんどのメンバーが拙宅のストーン・スピーカー「STS-Ultimate」の鮮度の高いサウンドを聴いていただいていることもあってか、もう少し鮮度が欲しいとの意見が共通した結果になった。

DACやデジチャン、アンプも不要なパワード・スピーカーであり、コスト・パフォーマンスも大変優れていることを考えると、様々なオーディオ的な観点から評価して、まさに現代における最先端の音響機技術を結集したスピーカーであると評価できる。

 

 GENELECが永年磨いてきたとされるルーム補正機能である「GLM」は、リスニング・ポイントの耳の位置に付属の計測マイクを立てて、数秒のサイン・スィープ信号で、ビシっとセンターも決まり、鮮度も若干上がった印象に変化する。

GLM画面1 


GLM画面2 


 今回の試聴会に参加されたOKさんは、拙宅で1泊の合宿での試聴となったが、その期間中に「8351B」を「TRINNOV」で音響計測と音響補正を試めしてみようということになり結果、鮮度がかなり上がった印象に変化した。

 この鮮度向上の変化は、「TRINNOV」が80300Hzあたりの盛り上がりを検出してフラットに補正していることが大きく寄与しており、貸出期間中に感じてきた、もう少し鮮度が欲しいと感じてきたのは、この中低音の盛り上がりによる印象も大きな要素であると、OKさんとも共通した見解となった。

 「8351B」の軸上、1.5mからの測定と「TRINNOV」がリスニング・ポイントでとらえた特性には乖離があるが、聴感上の印象は「TRINNOV」が計測した特性に近い印象と感じられる。

 GENELECの「DLM」によるルーム音響補正後も同じく「TRINNOV」で計測をしたところ、確かに中低音の盛り上がりが改善されている。

ルーム音響補正については、「TRINNOV」に一日の長がある結果となったのであるが、「TRINNOV」では周波数特性のみの改善ではなく、位相特性も大きく改善するので、この点も音の鮮度改善に寄与しているのかもしれない。

GLM Non-Calibration


GLM補正後

GLM Calibration 

  「8351B」によるリスニング・ポイントの周波数特性は、拙宅のオーディオルームの影響にもよるところもあると思われるが、パワード・スピーカーとして内臓DACやデジチャン、デジタル・アンプなどのノイズフロアーやS/N比の向上を図ることで、とんでもないスピーカーに化けるとの評価も参加者の共通した評価結果であった。

 

 永年、スピーカーをオーディオのメインに据えて、ストーン・スピーカーまで製作してきた者としては、スピノラマという音の良さをスコア化するという指標は極めて合理的で、その指標で高い評価を受けたスピーカーは、確かに重低音から高音域迄、周波数特性の素直さという観点では、バランスが大変良いスピーカーであることが確認できた。

 

またコアキシャル・ユニットを採用したスピーカーである「8351B」の特徴から、上下の指向性の評価で有利に働いた利点もあると思われる。

 

今回の試聴参加者は、拙宅のストーン・スピーカーで鮮度の高いサウンドを耳にしてきた訪問者ばかりであることもあって、今一歩の鮮度不足を感じさせる結果になった点については、やはりパワード・スピーカーの限界を感じさせる一方で、今後の内臓デバイスのレベルアップによっては、とんでもないスピーカーに大化けする可能性も感じさせる評価結果となった。

 

音の良さをスコア化するスピノラマという評価基準は、さらに鮮度感や開放感、空気感といった極めてオーディオ・ライクでパラメーター化しにくい要素についても一定の比率でスコア化に組入こんだ、「新スピノラマ」ともいうべき指標へのバージョンアップの必要性も感じる評価結果となった。

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No title

先日は8351Bの試聴を誘っていただき有り難うございました。

一言で言うと「驚くべきコストパフォーマンスの製品」ですね。最低限、音の入り口さえあれば、後は何も要らないわけですから。

日頃からまつさんの音を聴いていての比較となると、違いが感じられて当然ですが、ネットワークの呪縛から解放された方式だけに許される独特の鮮度感は明確にわかりますし、低音の迫力、中高音の質感、音の切れ等、色々な点で十分にハイエンドレベルの音です。

仮に今からオーディオを始めるとして、しかも初めから最先端の音質が欲しい、しかし何百万円もの出費は無理、という状況なら、私なら迷わずこの製品を第一候補に据えるでしょうね。

No title

Tさん コメントありがとうございます。
 オーディオ機器の中で、スピーカーだけが、今日までスタイルに大きな変化がないと思ってきましたが、このスピーカーの仕様やサウンドを聴いていると、オーディオ関連技術の積み上げによって、大きく進化してきていることを実感させられました。

 Tさんのおっしゃる通り、オールインワンのスピーカーであることを考えるととんでもないコスト・パフォーマンスだと思います。
 拙宅のストーン・スピーカー
のサウンドを上回らなったのが、精神的に救いでした(笑)が、追い抜かれる日もそう遠くないかも知れません。
 このスピーカーは、カテゴリーがスタジオ用機材ですが、ホームオーディオとしても充分にハイエンドスピーカーとして通用しますね。
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